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縁起の真実への目覚め

第162回ロンドン会座報告

南無阿弥陀仏

2023年二月二十六日、私たちは第162回ロンドン会座に温かく迎え入れて頂きました。外の冷たい冬の気候に比べて、御仏間の雰囲気は非常に暖かく光に満ちており、新旧の参加者が一緒になって冒頭の勤行に参加させて頂きました。勤行後のお会座はアンディ・バリット氏の司会で進行、彼の活力と情熱は、顕明師と建心師の注意深い準備計画と相俟って、本当に忘れがたいお会座の創造に資するところ大でした。

私たちは、『縁起(依って起こっているということ)の真実への目覚め』という建心師のご法話に聞き入りました。釈迦牟尼佛の中心的教えに迫る深い内省と識見をもって、建心師は「縁起」の無我なる真実への目覚めの意味とそれが真宗教義に深く関係していることについてお話し下さいました。ご法話の最中、建心師は、「縁起の一如の美」を受け取る大切な機会をこの僧伽で給わった喜びと感謝を吐露されました。

建心師は、ご法話の出発点として釈迦牟尼佛の生涯を取り上げ、「四門出遊」の話から始められました。これは、釈尊がどのようにして輪廻界の苦の現実を知り、そこから解放される道に目覚めたかという話です。釈尊はついに「悟り」に到達し、弟子たちにそれを「四聖諦」として教えられました。その「四聖諦」には「八聖道」が含まれており、「八聖道」は「悟り」に導く八つの「正しい行」を説きます。八正行によって到達する「悟り」の世界について、釈迦牟尼佛は、それは人生のすべてが「喜び」となる境界であると説かれました。

建心師は、仏教における「正しい」という言葉のご自身の理解を話されました。それは、「八聖道」が浄土真宗の念佛行とどのように関係しているかを理解するためのキーワードとなる言葉です。私たちの煩悩のはたらきのため、私たちの見解は自己中心的で、本当に「正しい」とは言えません。例えば、三輪精舎の庭において、私たちは見えている石の表面部分を見ることができるだけで、その本当の実在は見えていません。最も見るのが難しいのは私たち自身なのですから、私たち自身の心についても同じことが言えます。それ故に、人生において自分自身の問題に直面すると、自分の自己中心性と有限な見解への執着はさらに強くなります。自分自身の見解が局所的であり間違っていると気付かせて頂けるのは、善知識やお同行の言葉や行動や態度などのような外的要素に照らされる時だけです。

建心師は、「縁起」の意味を考えるために、三輪精舎の禪ガーデンの例に戻られました。「縁起」は釈迦牟尼佛の主要な教えであり、それはまた私たち真宗信者の生活の中心ともなっています。建心師は、三輪精舎の庭はそれを構成している無数の物質から出来ているばかりでなく、それを創るために働き、維持するために働き続けている人々の大変な努力と愛によって成っているのですと仰いました。庭は、その深い歴史の懐に、訪れる私たち一人一人をも包み込みます。ですから、庭全体を知るためには、その一部を成しているすべての見えない部分にも気付く必要があります。続いて建心師は、自らの人生で経験した自分自身のこころの出会いやお同行のこころの出会いについて話され、そのような数々の精神的出会いによって、「『縁起』が、すべては異質の調和の中で相互に助け合うことにより存在しているという真実を意味している」ということを明白に教えて頂いたと仰いました。外的要因というか、私たちを照らす他者との出会いは、私たちの考え方や行動の仕方を根本的に変えるが故に、完全に私たちと一つになります。つまり出会いとは、「縁起の真実への感謝に満ちた気付き」ですと仰いました。

アンディ・バリットさんは、建心師に対して、建心師が釈迦牟尼佛や親鸞聖人、正行寺僧伽の善知識お同行から受け取った教えのすべてを尽くすような、深遠にして簡潔な法話をして下さったことに感謝されました。アンディさんは、このご法話は建心師の三輪精舎での17年余の歳月を反映しており、その間に成し遂げられた恩徳すべての凝縮的表現だと感じられたと言われました。クリストファー・ダクスベリ―さんは、かつて自分の職場の同僚たちが彼の企画の遂行の仕方を問題にした時は腹を立てたのだが、その後同僚たちの方が正しく自分の考え方が間違っていたことに気付いた時のことを思い出して話してくれました。その時クリストファーさんは、最初の自分の犯した間違いに対してだけでなく、同僚の質問を真剣に取り上げなかったことに対して、自分自身に腹が立ち恥かしくも思いました。「もし私たちが自己中心的に動くならそれはもはや『正しい行』ではなくなる」という建心師のお言葉によって、その時彼が感じたすべての感情はすべて自我と強い自己執着に駆られてのことであったと気付かせて頂いたと披歴されました。

ショーン・シムズさんは、昨年アウシュヴィッツを訪れた時の話をして下さいました。それは、最も極端な人間の苦悩に目を開かされた出来事でしたが、それ以前はそこで起こった歴史的話として間接的にしか理解していなかったと話されました。初めてロンドン会座に参加のステファン・ゴードさんは、前日の禅ガーデンの清掃経験を話して下さいました。最初に禅ガーデンを見たときは、汚れてないし掃除の必要はないと思ったが、当初自分に見えていなかったところをよく見てみると、注意深く取り除かねばならない沢山の花びらがありましたと言われました。

顕明師は、建心師のご法話を聞かせて頂いて、菩薩の誕生を目の当たりにしているように感じていると仰いました。ご法話の内容のすべては、建心師の真実信の生きた経験によって一つに統合されており、それは、縁起の法の真実を示す一如ですと、即今実感の歓びを披歴されました。今日のお勤めの時御文の拝読を聞かせて頂きながら、自分自身に伝えて頂いた信心が次の世代に無事かつ確実に伝わっていると実感したし、建心師のご法話によって、更に深く確信せしめられたと仰いました。僧伽の大事ともいうべき今日の建心師のご法話によって、ご院家さまが恵契さまの精神的後継者となられた時の、恵契法母とご院家さまのこの上なく大事な出会いを思い出させて頂いたと仰いました。ご院家さまが出家を申し出られた時、「父母未生以前の大親さまのお慈悲に抱き取られたが如くである」と恵契さまがお喜びになられたこと、また、ご自身の最も大事な仕事が成し遂げられたと恵契さまが述懐なさったことを伝えて下さいました。

次には、三輪精舎に止住している二十歳の石井ひとえさんと渡辺礼さんの所感を聞かせて頂いて参加者一同非常に嬉しく思いました。お二人は昨年夏以降正行寺で聴聞され、その特別な期間に気付かれたことを披瀝して下さいました。

ひとえさんの出発点は、大学卒業後の人生の方向について心にあったさまざまな疑問でした。聴聞期間中にひとえさんが気付かれたのは、彼女の人生はご両親の限りない愛情に包まれていたけれども、自分自身の疑いのために、心に抱いていた多くの心配事をご両親から隠していたということでした。これに気付かせて頂くや否や、心の中の暗雲がすべて突然消えさり、光に満ちた空の下に生きているように感じたと言われました。

礼さんは、ひとえさんの経験を聞かせて頂いて、自分の人生において見えていないものを発見できるように、聴聞に強い興味を覚えたと言われました。礼さんは、聴聞されることによって、英国に勉強に来て三輪精舎に住む最も重要な理由を発見されました。それは、学問的に成功を収めるというようなことではなく、三輪精舎でお同行と共にお念佛を称えることであったという気付きを披歴されました。それこそ彼女のご両親や祖父母が彼女に望んでおられることでした。

国吉融一さんは、お会座参集の方々に自己紹介をしてくれました。融一さんは、東京の大学で英米文学を学んできた正行寺若僧分です。融一さんは、正行寺において、この英国で仏教を実践できることに喜びと感謝を表明する三輪精舎のお同行から沢山の報告を聞かせて頂くことができましたと喜ばれました。これよって、真宗の家庭に育ったわけでもなく佛法には無縁だった西洋人たちに、真剣に佛教を実践したいと思わしめるものは一体何なのだろうという真剣な問いが、融一さんの心に出て来たそうです。そして融一さんは、しばらく三輪精舎に滞在して、そこで佛教の信仰が実践されるさまを見させて頂きたいと思わせて頂いたのだと述べられました。融一さんは、これまでに三輪精舎で経験した出会いと、顕明師と建心師から受け取った貴重な精神的訓練によって、新たな目線を頂戴したことに対して、甚深なる感謝の意を表明されました。

最後に、私たちは、UCLの仏教研究会の学生グループの中からロンドン会座に初参加の二人を歓迎できて非常に嬉しく思いました。その学生グループは、前日に三輪精舎を訪問して、三輪精舎の歴史や禅ガーデンについて、顕明師や建心師から頂戴したお話を満喫していました。その経験によって、お二人は三輪精舎を再度訪問してロンドン会座に参加したいと思い、自ら僧伽の活動を経験することができました。

この度のロンドン会座は、建心師のご法話により「縁起」の真実に照らされ、まるで三輪精舎の歴史に輝く宝石であるかのように思われました。この真実は、私自身の有限な理解力では目覚めることが不可能ですので、自分の愚かさと執着心に気付くためには、僧伽の皆さんの助けがどれほど必要であるかを自覚させて頂きました。これは、私自身には見えていないけれども、私の行動はほかの人々には明白に見えていることです。融一さん、ひとえさん、礼さんといった若い学生さんたちからも、信心は決して当たり前のことではなく、僧伽の内で佛法を聴聞することによって、人生の真実を求める誠実な専心が必要なのだということを教えて頂きました。皆さま方の言行を通して輝き出た阿弥陀仏の限りないお慈悲を受け取らせて頂くという、この特別な好機をこのロンドン会座で給わったことに深く感謝申し上げます。

合掌

アンドリュー・ウェブ