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世界平和と和解を共に祈りましょう – 第165回ロンドン会座報告 –

2023年9月3日(日曜日)、ロンドンの非常に明るく温かな日に、三輪精舎では沢山の参加者が集まって、一年に一度の世界平和と和解を祈る会が厳修されました。日本大使館政務班の辻昭弘公使が開会の辞を述べられ、三輪精舎に対してばかりでなく、この年中行事を始め多年に亘ってそれを継承して来られた沢山の人々の多大な努力に対して謝辞を述べられました。そして、「このような会合は、世界が困難な問題に直面している今、一層重要である。このような危機的時期に、日本と英国の両国は平和と和解を見出し一層堅固な絆を築くことが出来ていますが、これは世界にとって極めて大切であります」と述べられました。

今年の法要では、極めて残酷な紛争で互いに戦った日英戦士の和解に尽力したBCFG(ビルマ戦線友好グループ)の輝かしい創立者の一人であり、三輪精舎和解の会の最初の参加者の一人であられたモーリス・フランセス氏の13回忌法要を併修させて頂きました。今年の会合には、アマラヴァ―ティ・モナスタリー、ロンドン・ブッディスト・ヴィハーラ、モゴク・モナスタリー、日本山妙法寺、立正佼成会など、英国にある様々な仏教宗派の僧尼や在家の方々が参加して、お経を読誦して下さいました。皆さま方の読経の音声は一切衆生に対する佛さまのお慈悲を反映し響流して、お佛間は深い安らぎに満たされました。

次に、長きにわたってこの和解の儀式の友であり支持者でもあるリッチフィールド大聖堂主教、マイケル・イップグレイヴ尊師からのお手紙が読み上げられました。師は近親者の大病のため残念ながら出席できなかったのですが、和解の会にメッセージを送って下さいました。マイケル神父さまはその手紙の中で、「いかなる形の差別も超えた聖者の大悲」という顕明師のお言葉に現れている浄土真宗の「感謝の念佛」は、「聖書でイエスキリストが教えておられる自己を与える愛」の表現でもあると感じたと、述べておられました。

伝統的な和解の握手の後、顕明師は「世界平和と和解を共に祈りましょう」という感謝の話をされ、個々人による心の平和の達成と世界平和の確立は切り離すことの出来ない関係にあるということを感動的に論じられました。前者がなければ、後者は永遠に不可能です。私たち自身の心と外の世界に安らかな調和を建立するためには、「どんなに些細に見えようとも、只今善いと思われることを、一歩一歩行為のために行為する」ことが大事であります。

顕明師は、かつては命を奪い合う宿敵でありながら、この年に一度の集会で共に世界平和と和解を祈るために、老衰と病苦をものともせず三輪精舎に集われた一人一人の退役軍人の方々を偲ばれました。特に感動的な実例は、1997年の三輪精舎和解の会で「愛憎と敵味方の束縛」を乗り超えてよき友となった、柳悟氏とモーリス・フランセス氏の出会いでした。

後に柳氏は、三輪精舎でフランセス氏と抱き合った時を、心にあった固いしこりが溶け去り、すべての憎悪の感情が完全に消え去った瞬間だったと語っておられます。そうして、柳氏は「人との真の出会いは、真実そのものとの出会いである」というご院家さまのお言葉に目覚められたと仰っています。

顕明師は、親鸞聖人御消息の新しい英訳から一文を引用して、ご講話の結論とされました。親鸞聖人はお弟子の方々に、阿弥陀仏の大悲のはたらきとして、一旦みずからの救済を確信したら、他の人々も本願に目覚めるように真剣に祈るべきだと仰っています。そのようにしてはじめて、阿弥陀仏のご恩に感謝していると言えるのです。

「国際的友好和解トラスト」の会長であるフィリダ・パ―ヴィス女史は、ミャンマーと境を接していて現在は東北インドの国になっているナーガランドを最近訪問したことについて、魅力的かつ開明的なお話をして下さいました。ナーガランドの都コヒマは、第二次世界大戦中は苛酷な戦場となり、数万人もの戦士や住人が死ぬことになった場所です。想像を絶する人命の損失を振り返りながら、パ―ヴィス女史は「死はすべての差別をなくします」と言われました。そこのあるキリスト教の大聖堂は、篤信の人々の手によって和解の生きた象徴として建立され、日本から贈られた美しい桜に囲まれています。今なお戦争の爪痕に苦しんでいるナーガランドで開催される特別な平和と和解の提唱促進について語られた後、パ―ヴィス女史は、いかなる方法を取るにせよ私たちにできる方法でそこの人々を支え、この和解の旅に参加して世界平和に寄与しましょうと激励して下さいました。

ミャンマー仏教協会代表のリチャード・ぺ・ウィン氏は、自らの聞いて来たテラヴァーダの教えに照らして顕明師の法話に言及し、最も大事なのは心であり、もし私たちの心が憎悪と瞋恚と無知から自由になるなら、周りの世界は平和になるでしょうと述べられました。仏教協会会長のデズモンド・ビドルフ博士は、戦争は人間にとって過失であるという事実を顧みながら、私たちの存在の内奥において甚深なる転換を遂げることによってのみ、私たちはそれを克服できるのですと仰いました。和解と赦しはこの転換に大きな役割を果たすものであり、それがなければ、私たちには他人に対して強情な好戦的な態度しか残りません。この転換は、家庭内で、私たちの心の中で始まるのです。佛法は、真実の平和と心の和解を見出し得る最も偉大な道の一つですとお話し下さいました。正行寺住職竹原智明師の孫娘・竹原径さんをお会座にお迎えし、私たちはみんな喜びに満たされました。径さんは現在三輪精舎に一ヵ月滞在中で、三輪精舎到着以来皆さんに給わった非常に暖かい歓迎に感謝の意を述べられました。径さんは大学で建築を勉強しており、英国でもいくつかの重要な建築を見学されたのですが、英国を訪問された本当の理由は、ご自身の祖父母や両親、正行寺のお同行が支えて来て下さった三輪精舎僧伽に出会うためでしたと仰いました。

私はこれまで二十年以上にわたり毎年平和と和解の会に参加してまいりましたが、今回のお会座に参加してはじめて、この会の創立者たちの深い祈りを理解し始めたと感じました。私にとって、和解のためにお互いに握手する儀式は、儀礼的行為のようにしか見えていませんでした。しかしながら、柳氏やフランセス氏のような退役軍人の方々にとって、和解の握手は彼らの心を完全に変えてしまった人生の一大事でした。退役軍人のお一人お一人は、その意義深い和解と赦しの行為によって、心の平和(イナー ピース)を達成されました。そして、顕明師のお言葉によれば、そのような退役軍人の方々はみんな、私たちもまた共に、愛憎と敵味方の差別を超えて、大悲のはたらきに目覚めることを真剣に祈って下さっていました。私は、この和解会座を当たり前のことと考えてはならないと感じました。この強固な基盤を、創立者たちの御恩を思い出すこと、そして真剣に参画するによって、これからも引き続き維持し強化していかねばなりません。

アンドリュー・ウェブ