世界平和と和解を祈る儀式
第140回ロンドン会座で厳修された世界平和と和解を祈る儀式は、今年もまた深い感動を呼び起こす刺激に満ちたイヴェントでした。それによって、私たちは、人間闘争の恐怖を思い起こさせて頂くと共に、自らの生涯においても未来世代のためにも、平和と和解のためできるだけのことをさせて頂くのだという深い感応と生命肯定の活力を頂戴しました。第二次世界大戦で亡くなられた方々や、その後平和と和解の運動に多大な貢献をしながら今は悲しくも故人となられた退役軍人の方々の追悼法要に集られたご高僧やご来賓に同席させて頂けるというのは、本当に勿体ない経験でした。
本年度は、これまで三輪精舎の和解の会に大きな貢献をされ、九十五歳で亡くなられた「ビルマ・スター・協会」メンバーの退役軍人、故ビル・スマイリー氏に特別な感謝を捧げさせて頂きました。ダイアナ・スマイリー夫人とエレアナ・スマイリー嬢には、ロンドン会座に参加するために、遥遥ベッドフォードからお越し頂き、三輪精舎一同喜ばせて頂きました。
ロンドン日本大使館の政務班公使、御巫智洋(みかなぎ・ともひろ)氏が法要全体の開始に先立ってご挨拶なさり、1997年以来長期に亘り三輪精舎で開催されて来た平和と和解の会において日英退役軍人の和解のために尽した多大の努力に謝辞を述べられました。
佐藤顕明師導師の浄土真宗勤行に引き続き、ミャンマー仏教教団や日本山妙法寺の僧分方や正法庵禅センターとフェアライト禅寺代表者の経典読誦がございました。リッチフィールド大聖堂から来られたトーマス・プラント神父(ケンブリッジ大学で浄土真宗をテーマに博士号取得)は、宗教間対話の中心にある逆説に触れる、洞察に満ちたお話をして下さいました。つまり、一方では自らの独自性と重要性を力説する宗教活動に従事しながら、他の宗教的伝統を尊敬し大事にするということが、どうして可能かという問題提起です。
佐藤顕明師は、ビル・スマイリー氏を追悼しながら、心に響く感謝の法話をされました。この日の会合に浸透している友情と平安の雰囲気に適切この上ないお釈迦さまのお言葉、「友達をもち、友達と共にあり、友達に囲まれているというのは、清浄行の半ばではなくて、清浄行の全体です」という『サムユッタ・二カーヤ』の聖句を引用しながら始められました。
顕明師は特に、ミャンマー連合共和国の代表の方々に対して、第二次大戦中に多大の苦難を経験されたミャンマー人民の方々と和解したいという熱願に応えてロンドン会座に参加して下さった事実を感謝されました。
その後顕明師は、和解運動の父である平久保正男氏が「生かされて生きている(他に与えられたいのちを生きている)」といつも仰っておられたことを思い出して話されました。顕明師は、ビル・スマイリー氏もまったく同じ自覚、つまり「自分のいのちは贈り物である」という気づきを表現されていた、そして、自分自身の有限な存在と他から頂く無条件的な愛(無縁の大悲)についての安らかな気付きを伝えようとしておられたのだと感じたと言われました。顕明師は、「死ぬ前に日本人と和解したいというビル・スマイリー氏の素晴らしいご発言の背景には、このような深遠な気付きがあったのです」と続けられました。顕明師は故ビル・スマイリー氏の赦しの精神に対して甚深の謝意を述べられました。
お会座に出席の来賓の方々のお言葉としては、最初に「ビルマ戦線協会」会長のマクドナルド昭子さんが最初に話されました。マクドナルドさんもまたスマイリー氏を讃嘆され、スマイリー氏がビルマの戦地で遭遇した最も悲惨な戦争経験についてのイーメール便りを紹介されました。そのお手紙は本当に、戦争中日英双方の戦士とビルマ人民が経験せざるを得なかった苦難と恐怖の環境を、痛切に感じさせるものでした。
「国際的友情和解トラスト」の秘書、フィリダ・パーヴィス夫人は、いや増しに不安定化する世界情勢の中でますます増加している戦争を避けるために、どれほど多くのことをしなければならないかを強調してお話し下さいました。ジョン・ホワイト教授は、戦争の結果として起こる苦悩について無知なために、戦争というものが今日の世界においてまったく愚かに、しかもいとも簡単に、美化されていることを嘆かれました。私たちはまた、ミャンマー佛教協会上級代表のリチャード・ぺ・ウィン氏からもご挨拶を賜り非常に感謝しました。ぺ・ウィン氏は、英国在住のミャンマー人共同体に働きかけて、この和解運動への協力者を誘い合わせて参加して下さいました。
石井建心師は今年の夏季錬成会で賜った竹原智明師のお言葉について話されました。それは、阿弥陀佛は過去にいかに重い罪を犯した私たちでもすべてを救済すると誓われたその大悲の本願において、私たちが未来に再び罪を犯すことは強く抑止されているということを教えて頂いた師教です。同様に、退役軍人の方々が過去の敵に示された許しもまた私たちに未来に戦争を起こさないように努力すべきだということを教えて下さっていますとお話し下さいました。
会話は午後遅くまで長く続き、悲しくも先立たれた和解運動の創始者達からの贈り物である、この非常に特別なロンドン会座への参加者たちの間で、平和と和解の精神が 活き活きと楽しく働き続けていることを目撃できたのは、本当に素晴らしいことでした。
アンドリュー・ウェブ記