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世界平和と和解を祈る会 第159回ロンドン会座報告

九月四日日曜日、陽気の温かな昼下がり、世界平和と和解を祈り、第二次世界大戦の戦士を追悼する第159回ロンドン会座に、日本大使館からは五人の外交官、ロンドン佛教協会会長、ミャンマー佛教協会代表、他宗派のご僧分等、沢山の人びとが参詣され、おそらくコロナ禍が始まって以来最大の集会となりました。また多くの人びとがオンラインでも参加され、開始する前から温もり溢れる友好的雰囲気に包まれていました。

先ず、ロンドン日本大使館の政務公使、辻昭彦氏が、開会の辞を述べられました。辻公使は、コロナ禍が始まってから三年ぶりに対面で開かれたこの特別なお会座の開催に関わった佐藤顕明師他すべての関係者に感謝の意を述べられ、この世界に平和と和解を促進することがいかに大事であるかを語られました。公使はまた、「日本と英国が今日享受している平和と繁栄は、戦死者たちの貴重ないのちと苦悩の上に築かれたものであること、そして今日の強力な日英関係は、悲しい過去を克服し和解を実現させた両国民の努力に基づくものであることを忘れてはなりません」と述べられました。公使はまた、世界が今日直面している困難な問題に関して、世界の平和と繁栄を促進するために共に働くことの重要性を説かれました。開会の辞の後、勤行がつとめられ、その勤行の間には、第二次世界大戦の戦死者と和解という大事業を為し遂げられた先駆者への感謝と追悼のための焼香の儀が執り行われました。それは特に、三輪精舎の建立と和解運動に多大な貢献をなさったジョン・ホワイト教授の一周忌とイアン・ニッシュ教授の一周忌、三輪精舎の和解活動の初期から大きな貢献をして下さったモーリス・フランセス氏の十三回忌のためのお焼香でした。

勤行後、司会のアンドリュー・ウェブ氏がリッチフィールド大聖堂主教マイケル・イップグレーヴ師のメッセージを読み上げられました。イップグレーヴ師は、この重要な会座の開催に感謝され、特にこの時期に、私たちが世界平和と和解を求め続け、亡くなった方々を思い出すことが、いかに重要であるかを語られました。イップグレーヴ師は、この崇高な志願の実現に関わられた顕明師とそのすべての友人に対して甚深なる感謝を表明されました。

このメッセージの後、他宗派の僧籍の方々が世界平和と和解を祈り読経なさいました。これは、ロンドン・ヴィハーラや、正法庵禅センター、立正佼成会等の代表の方々です。読経はとても美しく、柔軟和合の雰囲気を醸し出して感動的でした。この衆僧読経に続いて、戦地で亡くなった兵士を思う詩の朗読があり、その二つの詩の間には、一分間の黙祷が捧げられました。

彼らは年取らない

   残された私たちは老いていくのに
   加齢による疲労はないし
   いく歳月にも困惑しない
   日暮に
   早朝に
   私たちは彼らを思い出す 

故郷に帰ったら、私たちの事を語り、告げて下さい
「君たちの明日のために、私たちの今日を捧げた」と

詩の朗読に続いて、参加者全員が席を立ち、国籍や宗教を超えて「和解の握手」を行いました。それは素晴らしい経験であり、そこにはまた柔和と友情の雰囲気が溢れていました。

続く法座では、三輪精舎主管の佐藤顕明師が「世界平和と異質の調和を祈りましょう」というお話をされました。
顕明師はご法話の中で、今年の儀式は、多くの退役軍人の中でも特に、過去一年間に亡くなられたお二人、三輪精舎の創建とその和解運動に莫大なエネルギーを注いで下さったジョン・ホワイト教授とBCFGの和解運動に貴重な貢献をなさったイアン・ニッシュ教授を追憶するものであったと述べられました。また、BCFGのためにその創建時から倦むこと無く働き続けられたモーリス・フランセス氏の十三回忌の年でもあると仰いました。ここで顕明師は、世界は現在、ロシアのウクライナ侵攻やミャンマーの人民抑圧など、無数の悲劇的闘争に直面していると述べられ、竹原智明師のご法話「欲心は禍の元―ロシアのウクライナへの侵攻-」に言及されました。

顕明師は、「人類は貪瞋癡の三大煩悩と自見への執着のために何千年もの間このような悲劇を繰り返してきた」と言われ、大事なことを沢山教えて頂いた退役軍人の方々について話されました。同日同時刻に同じ戦場で戦っておられたモーリス・フランセス氏と柳悟氏は、平久保正雄氏と共に遂には無二の親友となって、和解運動に多大の貢献をされたことを紹介されました。柳悟氏は日本からロンドンの和解会座に向けたメッセージの中で、「過去五十年間私の内に深く残存していた大きな苦悩の塊は、阿弥陀仏のご廻向のお蔭で、とうとう法水に洗い流されてしまいました。それは、本当に素晴らしい佛様からの贈り物でした。正行寺のご住職は、私たちに最も重要なのは心の平和の達成であると教えて下さっています。モーリス・フランセスさんとの出会いのお蔭で、私は本当に私自身の心の平和を達成することができました。モーリスさん、この素晴らしい経験は、あなたのお蔭だと深く感謝しています」と仰ったそうです。

顕明師は、「個々人の心の平和の達成こそが、世界平和へのまことの祈りの基礎である」と仰いました。心の平和の達成による真実の愛の実現においては、自分自身を愛するということと他者を愛するということは矛盾しません。大乗佛教の菩薩の理想は、自利利他円満です。真の自己は「無我」ですから、そこに矛盾はありません。自己と他者はより大きな一の中に見出されます。この真実の一の中では、自他は不一不二です。

顕明師はさらに、無二の親友、故ジョンホワイト教授の要請により、現在は親鸞聖人御消息の翻訳中であると仰り、心の平和の達成の重要性を示す二通の御消息を紹介して下さいました。その内の一通で聖人は、「往生を不定におぼしめさん人は、まずわが身の往生をおぼしめして、御念仏そうろうべし。わが御身の往生を一定とおぼしめさん人は、佛の御恩をおぼしめさんに、御報恩のために御念仏こころにいれてもうして、世の中安穏なれ、佛法ひろまれかしとおぼしめすべしとぞ、おぼえそうろう」と仰っています。

ご法話の結論として顕明師は、「極度の貧困と逆境に苦しんでいる人びとのために共に祈り阿弥陀仏に帰依しましょう」と仰いました。

顕明師のご法話に続いて、「国際的友情和解トラスト」のフィリダ・パーヴィス女史が、最近九十六歳で亡くなられたイアン・ニッシュ教授へ謝辞を捧げられました。特に日英関係史の優れた学者であったニッシュ教授は、日英間に平和と友情と交流をもたらすために様々な形で貢献なさいました。教授は、戦時中に起った暗黒の歳月と行動は、看過したり忘却したりしてはならないし、教訓は学ばねばならないということ、そういうことが再び起こることのないように、友情を育てていかねばならないと確信しておられました。フィリダ・パーヴィス女史によると、ニッシュ教授は「重要なのは、和解に向けて歩を進めることである」と仰っていたそうです。パーヴィス女史はまた、三輪精舎と佐藤顕明師、モーリス・フランセス氏、柳悟氏、平久保正雄氏、そういった方々が日英和解のために為し遂げられたこと、また今為しつつあることのすべてに対して、感謝の意を表明しますと仰いました。

次に話されたのは、佛教協会会長のデズモンド・ビドルフ博士でした。ビドルフ博士は、佛教は平和な宗教ではあるけれども、私たちには貪瞋癡の三毒があるために、常に平和であるというのは容易でないと話されました。私たちの身口意の三業への懺悔が大事であるが、これもまた必ずしも容易ではないと続けられました。最後に博士はジョン・ホワイト教授に対して「本当に卓越した人間」であったと賛辞を送られました。

次に、ミャンマー佛教協会代表のリチャード・ペ・ウィン氏が、ミャンマーの非常に悲しい現況について話されました。しかし彼は、戦争や抑圧も無常であって、遂には好転する時が必ず来るでしょうと仰いました。彼はまた、私たちが自身の身口意の三業を自覚することの重要性について話されました。

次にサム・ケリー氏が発言され、この会合に参加することよって、私は無常ということを深く考えさせられましたと言い、退役軍人の方々が彼等の煩悩に打ち克ち、昔の敵と和解し得たということに、大きな感動を覚えましたと仰いました。

次にアンディ・バリット氏が、現在の戦争に巻き込まれたウクライナのある仏教徒について話されました。この人が師に対して助言をお願いしたところ、なすべきことをなさねばならないが、煩悩に巻き込まれないようにし、「敵」を自分自身と違うものと見てはいけないと言われたそうです。アンディ・バリット氏はまた、現在の状況は、娑婆の生活においては、小さな憎悪の種が遥か大きなものへと転じ得るということを示していると言われました。

この後、シンガポール出身の僧侶、スマナ・シリ博士が発言され、善い思想を善い行動に移すことの重要性と、如何にそれを実行するかを理解することの重要性について語られました。高邁な理想を掲げる大きな組織が、ある状況下ではしばしば、本当の進歩を遂げ得ないことがあるとも言われ、マハトマ・ガンディの言葉「ただ人間性を心にとどめよ、そして他のすべてを忘れよ」を引用して終られました。

次には、クリストファー・ダックスベリー氏が発言し、親鸞聖人がすべての人に対して、いわゆる敵に対してでさえも、慈悲を示すことができたということに大きな感銘を受けましたと仰いました。また、自分の場合はまだ、敵対している人びとに対してよりも、そうでない人びとに対して慈悲心をもつことの方が易しいと感じる段階ですと、自分自身を見つめながら、懺悔の思いを込めて正直に吐露されました。

このロンドン会座への参加によって、世界平和と和解に向かって働くことがいかに大事であるかが再確認され、柔和と友情の雰囲気に包まれたお会座全体は、私たちに一体いかにしてそれが可能になるかを示して下さいました。

クリス・ドッド