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親鸞聖人と聖徳太子 第二十七回疏開リトリート報告

第二十七回疏開リトリートは、二〇二一年四月二十四日から二十五日にかけ、お同行がオンラインで三輪精舎に集い開催されました。今回もオンライン開催となったことから、遠い距離も参加の障害とはならず、マックス・ニルソン・ラドナーさんも香港の自室から参加することが出来ました。今回の疏開リトリートは、今年が聖徳太子の一四〇〇年忌に当たることから、「親鸞聖人と聖徳太子」というテーマが選ばれました。

このテーマについて、参加者は一ヶ月前からは小班に分かれ四週に亘ってオンライン座談会を開き、リトリートへの心構えを造らせて頂きました。また、その事前座談会に先立ち、聖徳太子に関する文献や聖徳太子に言及された顕明師のご法話、ご院家さまからのお手紙、親鸞聖人の太子和讃などを参考資料として特別なウェブページを作り、いつでも閲覧可能にして下さったアンディ・バリット氏に大変感謝致しました。私たちはそれらを頼りに、佛教を日本に確立し佛さまへの帰依を根底とした和国を建立された聖徳太子を親鸞聖人が佛さまの顕現として深く敬われていたことを学ばせて頂きました。

事前座談会で聖徳太子について話し合い、また各々が自らを内観しながら浮かび上がってきた最も重要なテーマの一つは、「調和」ということでした。「人生で最も深く調和を感じたのはどんな時だったか?」、「他の人とどうしたら調和できるのか?」、「特に困難な関係や問題のある環境ではどうしたらよいのか?」など、私たちは具体的な問いをもちながら意見を交わし合いました。また、僧伽において自分自身の師や法友に出会えた歓喜を分かち合いながら、親鸞聖人が聖徳太子に対して感じられた喜びや敬いについて熟考し、共有させて頂きました。

聖徳太子を遠い昔の歴史的人物としてしか見れていなかった多くのお同行にとっては、自分の思いと親鸞聖人のお言葉の間に重なり合う部分を見つけるのは至難の業でした。しかしながら、私たち一人一人がどのようにして正行寺と三輪精舎に出会ったかなど、自らの体験について話し合うことを通して、私はなぜ親鸞聖人が聖徳太子を偉大な菩薩として深く敬われたか、心に微光を感得し始めました。もし聖徳太子が出ておられなかったら、親鸞聖人がご自身の生きられた時世に佛法に遇うということは不可能であったに違いないと感じました。

四月二十四日、疏開リトリート開講式に続いて開かれた最初の座談会で、私たちは前述の事前座談会に参加して解らせて頂いたことや聖徳太子の人生と教えを自ら熟考して感得したことなど、自分自身の所感をお互いに述べ合いました。会合は、一人一人が心地よく話せる安らかで寛いだ雰囲気を創り出したアンディ・バリット氏の温かな司会で進められました。一人一人が感想を述べた後で、顕明師と建心師が心の琴線に触れる助言や激励をされるのを聞かせて頂き、お二人が一人ひとりの言葉を非常に深く聞いて下さっていることが解り、大きな感動を覚えました。

三輪精舎住人の若いお同行である石井ひとえさんは、疏開には初参加でしたが、「大学生になったからもう疏開に参加できるね」と勧めてくれた顕明師の示唆に衷心より感謝しつつ、「自分が初めて本当に佛法に出会ったのは佐藤博子さんのご往生の時でした」と述べられました。臨末のご病床で博子さんに「お浄土で待っているからね」と言われて、ひとえさんは人生で初めて「佛ましますこと」を実感したと言われました。

クリストファー・ダックスベリー氏は、「世間虚仮 唯仏是真」という聖徳太子のお言葉を頂きながら、「人生で最も大きな安らぎを経験できたのは、強固な自分の意見を捨ててお念佛を称えた時だった」と言われました。彼はまた「自分の自己中心性の故に、頻繁にこの摂取の光りを見失い煩悩ばかりになってしまう」という自覚も吐露してくれました。

鈴木佳さんは、個々人の内面の平和の達成によってのみ世界平和は可能となるという大行院様の甚深のご自覚を拝読して感動したことを話してくださり、「大行院様の聖徳太子へのご崇敬の念を学ぶことによって、三輪精舎僧伽で聖徳太子さまの無縁の大悲を頂戴させて頂いているのだと感じました」と披瀝されました。

残念なことに、ここではこの三人の所感を報告させて頂くスペースしかありませんが、私はお会座で話されたすべての方々に我が身を照らし出して頂きました。参加者お一人お一人のお披瀝の表現は実に独特でありながらも、そのすべて一貫して和していました。

一日目午後からのお会座では、石井建心師が『聖徳太子と私の周りに現れた太子の化現』と題してご法話をされました。このお会座はクリストファー・ダックスベリー氏の司会で行われ、同氏は独特なエネルギーと情熱を会合に注いでくれました。ご法話に先立って建心師は、正行寺が聖徳太子一四〇〇年御忌を記念して制作した『絵伝に見る聖徳太子』という素晴らしい雰囲気溢れるビデオを事前に英訳して私たちに見せて下さいました。非常に有益な解説と共に御絵伝の画像が使われていたことによって、そのビデオは聖徳太子の生涯とみ教えの真髄を伝えてくれました。

建心師のご法話は、「調和そして聞くということ」「親鸞聖人の聖徳太子との出会い」「私の人生における聖徳太子―観音菩薩―の化現」という三つの部門に分かれていました。建心師自身の精神的出会いや、佛法聴聞の経験の中から多くの実例が示されたことによって、ご法話の三つのテーマは、極めて鮮明にしてかつ現実的な形で、生き生きしたものに成り、私たちを大いに励まして下さいました。建心師のご法話を拝聴しながら、お浄土への道を歩む私を支え護るために、私の人生に現れて下さったすべての菩薩について考えさせて頂く機会を頂きました。この「菩薩の化現」ということは、建心師がロンドンで生活された過去十五年間に、ジョン・ホワイト教授との関係が深まり発展したかを話されたとき、特に力強く伝わってきました。 はじめ、建心師は、ホワイト教授のご高齢と強いご性格のため教授を「頑固を絵に書いたような人人」だと感じていたそうです。しかしな がら、疫病の期間にホワイト教授をより深く知る沢山の好機を与えられたことにより、またホワイト教授の竹原智明師と正行寺僧伽との出会いの歴史についてより多くを学ぶことによって、建心師はホワイト教授の「純粋なお慈悲」に目覚めさせられたのです。建心師は「私にとってホワイト先生は聖徳太子のご化身であり、太子様と先生は私の中で時空を超えて一つになりました」と感動をもって話して下さいました。

建心師のご法話に応えて、アンディ・バリット氏は、自分自身のホワイト教授との関係を顧みつつ、ホワイト教授の負けじ魂に関連して、わが心中に懐いた過去の苦渋を振り返られました。しかしながら、アンディさんは、「年月が経過するに従って、ホワイト教授は単に表面的な同化でしかないような偽の調和に収まることを拒絶し、まことの出会いによって常に真実を求め続けている誠実な人であることを理解するに至った」と話されました。建心師とアンディさんがそれぞれにホワイト教授との関係にあったすべての障害を一掃してしまったということを聞かれた顕明師は、ご自身の喜びと感謝を表明されました。顕明師はお二人のホワイト教授との出会い直しは僧伽の未来にとって非常に重要な事であると随喜されました。

疏開二日目の最後のお会座では、参加者一人一人がリトリート全体の所感お礼を語り合いました。疏開で共に過ごした時間は短かったけれども、リトリートの参加者一人一人が共有した内観には無底の深さがあったように思われました。「自分の祖父がその晩年に安定した信仰の喜びと安らぎを感じていなかったかもしれない」という不安を吐露された若年のお同行・プヌワニ理那さんに対して顕明師は、「阿弥陀佛の本願は全ての人をいかなる差別もなく摂取して下さるのですよ」と優しく語りかけられました。「人々の救済は阿弥陀佛がなさることであり、私たちのできることではありません」と仰って、顕明師は彼女に「あなたのお爺さんは、お浄土への道中にあるあなたを護って下さる菩薩だったのですよ」と仰いました。

アンディ・バリット氏は、「師の言葉と形を通して輝き出る、佛陀の純粋な癒しの光りにまったく驚嘆しました」と喜びを表明されました。デーヴ・ジママン氏は、「私たちお同行の出会い方は、聖徳太子のお慈悲のあり方に関連しており、それは人生で出会う人々を新しい別な観点から見ることを教えて下さったと思います」と披瀝されました。マックス・ニルソン・ラドナー氏は、「すべての人間関係を正しく見るならば、佛さまが私の信仰を定めようとして手を差し伸べて下さっていたのだと感じます」と言われました。クリス・ドット氏は、「一人ひとりの違いを通して僧伽の一如を見出し始めている」と仰いました。これに導かれて三輪精舎の建立原理『異質の調和』が有り難く頂かれて来たそうです。プヌワニ・香織さんは、僧伽の沢山の善知識に囲まれていることへの感謝を述べられ、石井早苗さんは「聖徳太子は、『あなたは周りの多くの菩薩に支えられているのですよ』と仰って、私を明らかに照らし出して下さいました」と言われました。

お会座を閉じるに当たって、顕明師はホワイト教授の正行寺での竹原智明師との最初の出会いに触れた建心師のご法話の次の一節に言及されました。

ホワイト教授は、ご院家さまに対して、「正行寺にやってきたのは、UCLの代表としてではなく一個人として、この世の成り立ちについてより深くより豊かな真実の理解を探し求めて、それによって現在及び、未来の人々のためにこの世界をより善いものにしたいと思ってあなた方の所にまいりました」と仰ったと記録されています。

顕明師は、「未来の人々のために」という言葉によって、『大無量寿経』において阿難が釈尊の光顔巍巍たるお姿を見て、どうしてそんなに輝いて見えるのですかと訊ねられた箇所を思い出されました。佛陀はその問を問うた阿難を褒められ、一切衆生に真実をもたらす問だと仰いました。「同じように、ホワイト教授の最初のご院家さまとの出会いは、三輪精舎の現在と未来のメンバーに真実を、本願の念佛を、もたらして下さったのです」と言われ、『大経』のその一節を拝読されて、この第二十七回疏開リトリートが閉じられました。

この疏開リトリートにおいては、「和が」根本であり、「世間虚仮 唯仏是真」という聖徳太子の根本のみ教えがすべてに輝きわたりました。

最後に私自身のお礼を述べさせて頂きます。先ずは、お同行お一人お一人の真剣な佛法聴聞によって、この私が私自身を見つめるのを支え励まして下さったことに対して、また、常に私無く忍耐強くこの私を教え導きつつ、特に佛法の光りを私に示す時の醇熟を待って下さっている顕明師と建心師に対して、そして最後に、常に何らの躊躇いも無く、限りないお慈悲によって、佛法という素晴らしい贈り物の受領を可能にして下さっているご院家さま、坊守さま、そして正行寺の皆さま方に対して、心より深く感謝申し上げてこの報告を終わらせて頂きます。

アンドリュー・ウェブ記